選挙がもたらした結果、その2
来る1月、民主党は、共和党から立法機関(連邦議会)のコントロールを取り上げることとなる。
連邦議会内には、上・下院共に色々な委員会が設置されている。連邦議会でどのような法案について議論・採決を行うか、ど のような問題点について聴聞会を開くか/調査するか、を決めるのは各委員会である。今までは、与党である共和党の議員らが各委員会の委員長を務めてきた し、委員会のメンバーの数も、与党である共和党議員の方が多かったため、文字通り共和党が連邦議会で取り扱う議題をコントロールしてきたわけである。
しかし1月からは、与党となる民主党議員らが各委員会の委員長を務め、委員会のメンバーも、民主党議員が多数派を占めることとなる。民主党は既に委員会を牛耳る準備を着々と行っており、その準備内容を覗いてみると、まるで新しい時代の幕開けのようである。
それでは、1月からどのようなことが連邦議会から期待できるか、今の段階で分かっていることを紹介しよう:
連邦司法機関の超保守化が止まる
ブッシュ大統領は、今までに超保守派のロバーツ判事やアリト判事を連邦最高裁判所の裁判官に指名したのを始め、同様の超保守派の人物43人を連邦控訴裁判所の裁判官に指名した。共和党が多数派を占める上院司法委員会は、問題なく指名を承認し、上院に投票採決を回してきた。そして当然のことながら、共和党が多数派を占める上院の過半数が賛成投票を投じた。
実は、まだまだ連邦控訴裁判所の裁判官の椅子はいくつも空きがある。しかし、民主党が多数派を占める上院司法委員会は、ブッシュ大統領が指名する超保守派の人物の承認をブロックすると見られる。
新しい法案アジェンダ
今まで共和党が提出してきた保守派の法案アジェンダ(妊娠中絶をする権利の制限、銃を持つ権利の擁護、同性結婚反対、反政教分離、反移民主義など)は、民主党が牛耳る上院/下院司法委員会では取り扱われないと見られる。
上院司法委員会の委員長に就任予定のパトリック・レイヒ民主党上院議員が同委員会のメンバーとして選んだ民主党議員は、東海岸の州(ニューヨーク州、バーモント州、マサチューセッツ州など)、西海岸の州(カリフォルニア州)、そしてイリノイ州、ウィスコンシン州から選出された議員ばかりだ。つまり、民主党上院議員の中でも特にリベラルな人達ばかりである。南部や中部の保守派の州から選出された民主党議員の中には、どうしても自分の州民の保守的な考えを尊重しなければならないとプレッシャーを感じる議員もいる。そのような民主党議員達を入れず、リベラル色の強い州から選出された民主党議員のみで固めた上院司法委員会では、保守的色合いの強い法案アジェンダが日の目を見ることはないだろう。
下院司法委員会の委員長に就任する予定のジョン・コンヤーズ民主党下院議員は、既に委員会で取り上げたいアジェンダのリストを用意している。そのリストには、次のことが入っている。
- 連邦最高裁判所が、性別、身体障害、または年齢に基づく差別を受けた時に訴訟を起こす権利を制限する判決を出したが、新しい公民権法を作ることによってその判決を覆すこと。
- ドラッグ所持者に対する刑罰の重さの矛盾の是正。例えば、クラック(固形)コケイン所持者に対する刑罰は、粉末コケイン所持者に対する刑罰より100倍重い。クラックコケインの所持者のほとんどがアフリカ系アメリカ人、粉末コケイン所持者のほとんどが白人であることから、人種差別であると問題視されている。コンヤーズ議員は、これをもっと公平にしたい。
- 死刑制度の見直し。
「拷問法」の改正
上院司法委員会の次期委員長レイヒ議員および他の民主党議員は、先程施行されたばかりの軍事委員会法、いわゆる「拷問法」を改正する法案を既に作っている所だ。その改正法案は、少なくとも次のような特色を持つ。
- 「敵の戦闘員」として囚われた者も連邦裁判所に人身保護請願できる。
- 「不法な敵の戦闘員」の定義の範囲を狭める。
- 軍事委員会にて、脅迫や強制による供述を証拠として提示することを禁止する。
- 大統領が一方的にジュネーブ第三条約を解釈する権限を制限し、行政機関が第三条約を守っているか否かについて立法機関(連邦議会)及び司法機関(連邦裁判所)がチェックする。つまり捕虜に対する拷問をさせないようにする狙いだ。
- 軍事委員会法の各条項の合憲性を見るため、司法機関(連邦裁判所)による審理を急がせる。
地球温暖化問題がやっと議題に
共和党は、概して地球温暖化現象を真剣に受け止めてはないが、上院の環境委員会の委員長を務めてきたジェイムズ・インホフ共和党上院議員は特に、「地球温暖化現象などというのは、嘘だ。神が我々を守ってくださるから大丈夫だ。」と言い切るなど、他国の人々からすれば常識と理解を超えた恐るべき人物であった。もちろん、環境委員会の委員長がこうであるから、地球温暖化対策について連邦議会が話し合うなどということはかつて無かった。
1月からは、バーバラ・ボクサー民主党上 院議員が環境委員会の委員長となる。ボクサー議員は、環境問題に比較的関心の高いカリフォルニア州の選出であり、彼女自身環境保護に熱心である。ボクサー議員が委員長に就任して始めにすることは、地球温暖化問題について聴聞会を開くことだそうだ。そう、やっと地球温暖化問題が連邦議会で話し合われることになりそうである!ボクサー議員は、共和党議員たちから既に、「環境委員会の委員長にしては、極端すぎる。」「現実離れしている。」などと非難を浴びている。(極端で現実離れしているのはどちらだ?恐るべし共和党議員達。)
その他
各委員会の委員長となる民主党議員は、委員長に就任次第以下のことをしたいと述べている、またはすると予想される:
上院情報委員会、ジェイ・ロックフェラー民主党上院議員: ブッシュ政権がイラク戦争を始めた理由について調査。
上院軍事委員会、カール・レビン民主党上院議員: 米軍をイラクから徐々に撤退させることをブッシュ政権に要求。
上院調査副委員会、カール・レビン民主党上院議員: 競争入札無しでブッシュ政権がハリバートン社など一定の企業に発注したことについて調査。(ハリバートン社に関する過去のエントリーは、こちらとこちら。)
上院予算算出委員会、ロバート・バード民主党上院議員: 始めから対イラク戦争に反対していたので、ブッシュ政権からの緊急軍事出費要求に対し、厳しい態度をとると予想される。
下院外交委員会、トム・ラントス民主党下院議員: イランおよび北朝鮮との対話をブッシュ政権に要求。
下院歳入委員会、チャールズ・ランゲル民主党下院議員: 貿易協定における、環境保護と労働者の権利の保護の基準を設置。
下院政府改革委員会、ヘンリー・ワックスマン民主党下院議員: ハリバートン社のイラクでの任務、そして石油会社の利益について調査。
おまけ
ジョン・ボルトン国連大使は解雇、ということになりそうだ。
資料:
Democrats Set for Top Congress Roles, BBC News, November 10, 2006
Bush's Power to Shape Judiciary Over, Bloomberg, November 14, 2006