アメリカ=「自由の国」、だから虐待/拷問をする自由もあり?
ブッシュ大統領は折に触れ、CIAだけは、捕虜を拷問・虐待しても罪から免れるように尽力してきた。捕虜の非 人道的取り扱いを禁止する連邦法が作られた時、大統領はこの法律を好きなように解釈して施行する権限がある(つまり、CIAが尋問を行う時はこの法律が適 用されない、と勝手に解釈して施行する)というようなことを書式声明にて告知している。
さ て今年6月、連邦最高裁判所が、グァンタナモ湾の軍事委員会は違法であると判決を下した。グァンタナモの軍事委員会とは、現地の収容所で抑留されているア フガニスタンからの捕虜を裁くために設置されたもの。判決の一部は、次のようなものであった: (1)アフガニスタンからの捕虜は、ジュネーブ条約の第三条約 (以下「第三条約」と呼ぶ)でいう「戦争捕虜」に相当する; (2)第三条約は、抑留国が戦争捕虜を裁く際、その裁判において戦争捕虜としての正当な権利 を保障するよう定めているが、グァンタナモの軍事委員会は、アフガニスタンからの捕虜に戦争捕虜としての正当な権利を与えておらず、第三条約に違反してい る。
ちなみにこの判決の内わけは、5対3であった。(ロバーツ判事長は審理しなかったので、8人。)多数派の5人は、リベラル派の4人の裁判官(スティーブンス判事、ギンズバーグ判事、スーター判事、ブライヤー判事)及び中道保守派の裁判官(ケネディ判事)であった。
こ の判決で意義のあることは、グァンタナモで拘束されている捕虜が、「第三条約で定められているところの戦争捕虜」とみなされたことだ。ブッシュ政権はずっ と、「今アメリカは戦争中である」という口実で、米軍の最高司令官である大統領と行政機関の権限を拡大させてきた。ところが、捕虜が捕虜としての権利をな いがしろにされていると訴えると、「これは本当の意味での戦争ではないから、捕虜には戦争捕虜としての権利などない」などと、ダブル・スタンダードの主張 をしてきたのである。しかしこの判決で、グァンタナモの捕虜が第三条約の恩恵を受けることとなった。
とすると、CIAがグァンタナモの 捕虜を拷問・虐待した場合、第三条約違反で訴えられ、違法判決を受ける可能性がある。第三条約は、戦争捕虜に対する拷問/非人道的扱いを禁止しているから だ。国内法なら、上でも述べたように、ブッシュ大統領が署名する段階で、法律を好きなように解釈して施行する権限が自分にある、と書式声明にて告知してき たが、国際条約はそうもいかない。
頭にきたブッシュ政権は、自分達で捕虜の取り扱いに関する連邦法案(軍事委員会法案)を練り、連邦議会に提出した。この法案の特徴は、大雑把にまとめると次のようなものである:
- 捕虜は、「不法な敵の戦闘員」(以下「不法戦闘員」と呼ぶ)と「合法な敵の戦闘員」(以下「合法戦闘員」と呼ぶ)に分けられる。
- 合法戦闘員は、敵国の軍隊の兵士。
- 不法戦闘員は、
- 合法戦闘員ではない者で、アメリカに敵対する行為をとった、もしくはそのような行為に向けて物質的援助を行った者、または、
- 大統領もしくは国防省長官が不法戦闘員であると指定した者。(つまりブッシュ大統領やラムズフェルド国防長官は、独断と偏見で誰でも不法戦闘員に指定して拘束する権限がある。)
- 不法戦闘員を裁く為に、大統領は軍事委員会を設置する権限がある。
- 不法戦闘員は、裁判にて、第三条約を持ち出して自分の権利を求めることはできない。
- 軍事委員会では、脅迫や強要による自白や証言を証拠として提示できる。(刑事法手続き枠内ではこれはご法度。)
- 第 三条約で禁止されている捕虜の拷問や非人道的扱いが、具体的にどのような行為を指すのかを解釈する権限は、大統領にある。 (つまり、CIAが今まで捕虜 に対して行ってきた尋問テクニック-模擬的に溺れさせたり(水面攻め)、冷却した室内に裸で置き、氷水をかぶせ続けたり、直立させたままにし、座ったり横 になったりすることを禁止したり、長期間に渡って睡眠妨害をしたり、家族を痛い目に遭わせると脅したりすることなど-は、誰もが第三条約で禁止されている 拷問/非人道的扱いに相当すると考えるであろうが、ブッシュ大統領が、「そうではない」と言えば、そうではないのである。)
- 連 邦裁判所は、米国市民ではない敵の戦闘員(合法、不法共に)の人身保護の申し立てを、審理してはならない。また、拘束方法、身柄の取り扱い方、軍事委員会 の裁判のやり方、収容所の状況などに関して、米国市民ではない敵の戦闘員が米政府を訴えても、それを審理してはならない。(つまり、アルカイダとは何の関 係も無いのに、間違って拘束されて、いかにひどい拷問・虐待を受け、人権を陵辱され、人生を台無しにされようとも、敵の戦闘員とみなされたものは、米政府 を訴えることはできない、運が悪かったと思って泣き寝入りするしかない、ということである。)
この法案は、好き勝手に誰でも拘 束する権限を大統領と国防長官に与え、第三条約を一方的に解釈する権限を大統領に与えることによってある程度の拷問を合法化し、捕虜にされてしまった者か ら基本的な法の保護を取り払ってしまうという、独裁政権国の法律のような、とても恐ろしいものである。こんな法案を、連邦議会が通すはずはない、と思われ るだろう。
しかし、連邦議会は、上院も下院も通してしまった。今やこの法案は、ブッシュ大統領に署名されて法律になるのを待つばかりだ。
民主党は、また無能さを発揮してしまった。この法案がどれだけひどいものであるかを国民に説明しないまま、議会での議論、続いて採決に移り、すんなりと法案を通過させてしまった。上院議会では、パトリック・レイヒ議員やエドワード・ケネディ議員(J.F.ケネディ元大統領の末の弟)などが、この法案のひどさを熱弁していたが、それだけに止まってしまった。
この法案はあまりにひどいので、法律になれば、その合憲性を問うための訴訟が起こり、連邦最高裁が違憲判決を下し、この法律を無効にするだろう、とタカをくくった民主党議員もいたはずである。だから、今の所はまあ通しておけ、と。
確 かに今の連邦最高裁なら、リベラル派4人と中道保守派1人の5人が、この法律は違憲であると判決を下すかもしれない。しかし、リベラル派裁判官の1人、ス ティーブンス判事は、現在86歳。いつ引退してもおかしくないのだ。もし彼がブッシュ政権下で引退した場合、もしくは、もし次期大統領も共和党で、その政 権下で引退した場合、後任には、ロバーツ判事長やアリト判事のように、行政機関に好意的な超保守派裁判官が指名されることになるだろう。5人が超保守派を占める連邦最高裁が、この法律は違憲、などと判決を下すことは、極めて可能性が少ないような気がする。
それを考えると、民主党議員達は今、この法案を通過させないようフィリバスター(議事妨害)をして、頑張るべきだったのではないか。ニューヨーク・タイムズ紙の社説には次のように書かれてある:
民 主党議員達が恐がっていることについては、彼らを責めるつもりはない。共和党は、この法案に投票しない者には、「テロリストを手助けしている者」という レッテルを貼ってやる、と明言してきたからだ。しかし後世の国民は、民主党がブッシュ政権に降服した理由付けなど覚えてはいないだろう。彼らが分かってい るであろうことは、2006年に連邦議会が、アメリカの民主主義の最低地に位置するともいえるこの圧制的法律を通過させた、ということのみである。