戦争と不法滞在者
2005年の暮れ辺りから保守・右派の間で反移民主義が台頭し、ラテン系には不法滞在者が多いというイメージから、特にラテン系移民に対し風当たりが強くなった。(東ヨーロッパや ロシアからの不法滞在者も多い、つまり白人の不法滞在者も多いのだが、人種偏見から、「不法滞在者=ラテン系」となってしまっている。)共和党は、不法滞在者を重犯罪者にするという法案を作った。この法案は通らなかったが、ラテン系の不法滞在者を恐怖に落とし入れるには充分だった。
さて、この状況を大いに利用しているのが、軍隊だ。
軍隊は従来、低所得層の家庭の高校生をリクルートしてきた。大学に行きたくても学費が賄えないので、諦めざるを得ない、という状況にある彼らに、リクルーターは、「軍隊に入れば、大学の学費を払ってやる」と約束するのである。(実際には、軍隊に加入しても、大学の学費を獲得するのに様々な必要条件があり、それを満たして学費をもらう兵士は少ないらしい。) つまり、リクルートのターゲットは「低所得層の高校生」、リクルートの道具は、「高等教育」だった。
今でも低所得層の高校生はリクルートのターゲットであることに変わりはないが、最近、軍隊リクルーターたちは別の新たなターゲットにも狙いを定めている。それが、「不法滞在者」だ。そして彼らをリクルートする為の道具は、「グリーンカード(永住権)」である。
リクルーターたちは、ラテン系の高校生に近づき、彼らもしくは彼らの両親が不法滞在者であることを確認して、「軍隊に入れば、君と家族に永住権を与えてやる。」と約束する。不法滞在者に対する風当たりが強くなっている中、肩身の狭い思いをしてきた高校生達は、いつ国外追放されるか分からない恐怖から、または、両親を合法移民にさせてあげたいという一心から、軍隊に入ることを承知する。
こうしたリクルート方法は、全高校生の75パーセントがラテン系であるロサンゼルスで特に顕著である。
「私の高校にも、不法滞在の生徒が沢山います。」ロサンゼルス東部のガーフィールド校の教師を務めるアーリーン・イノウエ氏は言う。イノウエ教諭は、「学校における軍事化に反対する連合」という組織を作り、軍隊の口のうまいリクルートに騙されないように、生徒を教育している。イノウエ教諭の生徒であるサルバドー・ガルシア君は、お父さんが不法滞在者で、既に国外追放されている。サルバドー君は、このような体験をした:
「合法移民になりたければ、我々の為に戦ってくれ。そうすれば、君はもう二度と移民のことで悩まなくて済む。」と軍隊リクルーターは言ってきた。サルバドー君が、自分はアメリカで生まれた(つまり、アメリカ人である)というと、「君の家族の中で永住権が必要な人はいないのか?」と聞かれた。父親が不法滞在者だったので、メキシコに強制送還された、というと、「君が軍隊に入れば、お父さんを呼び戻すことができる。我々がお父さんに永住権をあげれば、もう誰も彼にちょっかいを出すことはない。」サルバドー君は、もう少しで承諾するところだった。しかし、アメリカの戦争と、アメリカの移民政策と、(貧困に窮する人が多い)メキシコの国の状態がどのようにつながっているか、という事実に気付き、断った。サルバドー君は今、軍隊リクルートから生徒を守るために積極的に活動している。
リクルーターたちは、あたかも軍隊が本人や家族に永住権を与えることができるかのように言うが、実際は、永住権を許可するか否かを審査し決めるのは、もちろん移民局である。移民局は、昔は法務省の管轄下に置かれていたが、9-11事件以降は、国土安全省の管轄に入り、その業務は、テロ対策のための移民管理、という色合いが強くなった。そうなってからは、不法滞在者に対して厳しい取り締まり方針をとっている。(ちなみに9-11のテロリスト達はみな合法滞在者だったのだが。)その移民局が、子供が軍隊に入ったからといって、不法滞在者であるその親を簡単に許し、どんどん永住権を与えるとは信じがたい。
現に、ホルヘ君というシカゴの元高校生は、リクルーターが「君と家族に永住権を与えてやる」と約束したから、軍隊に入った。確かにホルヘ君自身は、イラクに派遣された後永住権を取得できた。しかし、家族はもらえなかった。彼は怒り、もう軍隊は信用できないと思った。そして軍隊から逃げ出した。
ホアン・エスカランテ君の場合は、イラクにいる間に、移民局が彼と彼の両親をメキシコへ強制送還する手続きを始めた。ホアン君の属する陸軍ユニットの司令官が移民局に書状を送り、移民局もやっと彼を合法移民として認めた。しかし、彼の両親に対する強制送還手続きは、まだ続いている。
家族がちゃんと合法移民になれた場合も、ないことはない。
生まれた時からメキシコに住んでいるへスース・スアレス・デル・ソラー君は、ある日カリフォルニア州最南端の街チュラ・ビスタに買い物をしにやって来た。そこで軍隊リクルーターに出会い、「君がアメリカの軍隊に入れば、家族と一緒にアメリカに移住することができる。」と言われた。へスース君は、彼のメキシコの自宅の電話番号をリクルーターに渡して帰った。それから毎週2回はリクルーターから電話がかかり、カリフォルニアに引っ越すように両親を説得せよと、促された。へスース君と両親は、ついに、メキシコの自宅を売り払い、カリフォルニア州サンディエゴ郡に引っ越してきた。へスース君は、海兵隊に加入した。
それから3年後、へスース君は、20歳の若さで、イラクで戦死した。
へスース君の両親は、アメリカの市民権をもらった。しかし、子供を失った。2人は、へスース君の死に対処できず、離婚した。アメリカの市民権の代償は大きすぎた。
へスース君のお父さんであるフェルナンド・スアレス・デル・ソラー氏は、現在、へスース君の二の舞を出すまいと、軍隊リクルートからラテン系の若者達を守るべく、積極的に活動している。
Illegal Immigrants: Uncle Sam Wants You, In These Times, July 25, 2007
Comments
アナキン・スカイウォーカーがダス・ベイダーになってしまうのを思い出しました。