オバマ議員と政治における人種分裂
数年前にアカデミー賞を受賞した「クラッシュ」という映画がある。「クラッシュ」は、ロサンゼルスの各人種グループ間に存在する偏見を題材とした映画。白人系、アフリカ系、ラテン・アメリカ系、ペルシャ系、そしてアジア系の人々が、それぞれ他の人種グループに対してステレオタイプを抱き、そのステレオタイプを元に他人種グループに接するために、お互いを傷付けあっている様を描いている。
(この映画は、残念なことに、人間の行動や思考を単純に表現しすぎていて、あまり奥深い仕上がりになっていない。でも、人種のるつぼであるロサンゼルスで、水面化に存在する各人種間の偏見をテーマとして取り扱っていることは賞賛に値する。観ていない方は、是非ご覧いただきたい。)
この映画が象徴しているように、アメリカという国は、人種グループことに分かれている。もちろん、各人種グループごとに明確な線が引かれているわけではないし、このご時世、KKKやネオ・ナチのメンバーで無い限り、ほとんどのアメリカ人は、友人であれ恋人であれ仕事仲間であれ、様々な人種の人々と個人的付き合いがある。しかしそれでも、各人種間で偏見/差別は根強く存在する。また、差別とまではいかなくても、他の人種グループに対して競争心を抱いたり、自分の属する人種グループをひいき目で見てしまったりするものなのだ。
だから今まで、政治において人種間の分裂が存在してきた。例えば、60年代に民主党がアフリカ系アメリカ人の公民権を支持したから、アフリカ系アメリカ人の大多数は民主党を支持し、南部の白人の大多数は共和党を支持した。リベラル派が多いユダヤ系は民主党を支持していたから、アラブ系アメリカ人は、共和党を支持した。(現在では、中東をかき乱す共和党大統領に辟易したアラブ系は民主党を支持し、ネオコン派のユダヤ系は共和党を支持する、という感じになってきているが。)
当然、政治家達は、人種間の分裂を利用して選挙に勝とうとする。これは、れっきとした政治的手段として、アメリカ社会で伝統的に受け入れられてきたことだ。ここ数年、共和党政治家達が「反移民」、特に「反ラテン・アメリカ系移民」の言動を発し、白人有権者にアピールしているのも、その一例に過ぎない。
ところが、バラク・オバマ連邦上院議員は違った。彼は、民主党の大統領候補を決める予備選のキャンペーンで、人種間の分割、性別間の分割、リベラル派・保守派間の分割、とアメリカ社会を分割する壁を取り払って、みんな「アメリカ人」として一体となって政治を動かしていこう、と大衆に向かって呼びかけている。まさに政治の伝統と常識を打ち破ったメッセージである。
一方、対するヒラリー・クリントン連邦上院議員は、未だに人種間の分裂を利用して選挙に勝とうとしている。クリントン議員の為にキャンペーンして回っている夫のビル・クリントン元大統領は、「オバマ議員は、アフリカ系を代表しているアフリカ系のための候補者である」、という主旨の発言を繰り返している。つまり、オバマ議員が大統領になれば、アフリカ系以外の人種にとって何のいいことも無い、と大衆を脅かしているのである。
伝統的にラテン・アメリカ系は、アフリカ系に対してライバル心を抱いている。またアジア系は、白人と自分達以外の人種グループにはあまり信頼感を抱いていない。(ロサンゼルスの市長選においても、アジア系有権者は、ラテン・アメリカ系のアントニオ・ヴィラライゴサ現市長ではなく、もう一方の白人候補者に圧倒的に票を投じた。結局はヴィラライゴサ氏が大差で勝利した。) だから、クリントン元大統領の作戦は、この2つの人種グループにおいては、効果抜群だった。アリゾナ州やニュー・メキシコ州、カリフォルニア州など、ラテン・アメリカ系またはアジア系が多い州では、オバマ議員は敗れてしまった。
しかし、オバマ議員の実績をちょっとでも見てみると、クリントン元大統領の言っていること(オバマ議員はアフリカ系のみの為に働く)が事実ではないことがすぐに分かる。反移民主義が台頭した時、移民の権利を守るための政策を、エドワード・ケネディ連邦上院議員(J・F・ケネディ大統領の弟)と共に打ち出したのは、オバマ議員であって、クリントン議員ではない。(だからケネディ議員は、オバマ議員を大統領候補として支持しているのである。)この政策は、共和党の妨害にあって結局通らなかったが、もし通っていれば、特にラテン・アメリカ系の移民が救われていたはずだった。そして、イリノイ州の弁護士時代に、人種に関係なく低所得層の人々の生活を守る為に熱心に働いたのも、オバマ議員であって、クリントン議員ではない。
こういったオバマ議員の実績と彼のメッセージが、やっとラテン・アメリカ系に届き始めたのか、最近、ラテン・アメリカ系の大半がオバマ議員を支持し始めた。
残念ながら、アジア系は、まだオバマ議員に対する不信感をぬぐいきれていない。来るハワイ州の選挙では、オバマ議員が負けるかもしれない、と噂されている。ハワイ州の民主党は、ジャパニーズ・アメリカンが実権を握っているからだ。
しかし、白人系とアフリカ系、そして先にも述べたように、ラテン・アメリカ系の大半の人々が、今や団結してオバマ議員を支持し始めている。彼らは、疲れているのだ。人種グループごとに分かれていることに。だからオバマ議員の、「みんな一体となって」というメッセージに魅了されているのである。そして、このメッセージに魅了されているのは、民主党支持者だけではない。
ワ シントン州に住む私の親類夫婦は、ハードコアの右翼で共和党支持者である。この夫婦までもが、オバマ議員のメッセージにすっかり心打たれてしまっている。彼らは、こう言っている。「も しクリントン議員が民主党候補に選ばれたら、大統領選で共和党候補者に投票するが、オバマ議員が民主党候補に選ばれたら、彼に投票す る」、と。民主党を毛嫌いしてきた彼らが、「民主党候補者に投票する」、と言うなんて、すごいことだ。
オバマ議員が大統領になれば、本当にアメリカ社会をまとめることができるかもしれない。