クリントン議員を駆り立てているのは、彼女のエゴではない
民主党の大統領候補を決める予備選だが、今の段階では、ヒラリー・クリントン連邦上院議員は、勝利した州の数、獲得した投票総数、獲得した各州の代議員数、と全てにおいて、バラク・オバマ連邦上院議員に劣っている。(予備選のシステムについてはこちらをご参考のこと。)例え残りの州全てにおいてクリントン議員が勝ったとしても、今のオバマ議員のリードを覆すチャンスはもはや無きに等しい。
クリントン議員が勝つには、特別代議員に頼るしかない。特別代議員は、民主党の有力者たちが務める。特別代議員のシステムは、一般有権者に大統領候補を選ぶ権利を任せてはいられない、として数十年前に設置された非常に反民主主義的なシステムである。各州の一般有権者の投票数により、代議員の割り当てが終わり、B候補よりA候補の方がより多く代議員を獲得したとする。理屈ではA候補が民主党の大統領候補になるはずだが、ここで特別代議員が割って入るわけである。もしA候補が気に入らない場合、特別代議員たちはB候補を支持し、Bを大統領候補にのし上がらせることが可能なのである。
今の段階では、クリントン議員を支持する特別代議員の数は、オバマ議員を支持する特別代議員の数よりほんの少しだけ多い。しかし、どちらの議員を支持するかまだ表明していない特別代議員は多く、クリントン議員のキャンペーン団は、「未定」の特別代議員を買収しようとして必死だ。しかし、クリントン議員のオバマ議員に対する汚い攻撃のやり方から、クリントン議員にうんざりしている「未定」特別代議員も多い。また、特別代議員のほとんどは連邦議員や州知事などで、自分達も選挙によって選ばれる身であることから、彼らは一般有権者の意思を無視した形で大統領候補の支持を表明し、一般有権者の怒りを買うことだけは、避けたいと思っている。つまり、クリントン議員はほとんど絶望的な状況にある。
普通なら、このように不利な状況にある民主党候補者は、ここでもうさっさとあきらめて予備選から抜け、有利な民主党候補者が11月の大統領本選にて共和党候補者を打倒できるように、彼のサポートに回るのが筋というものだ。
なぜクリントン議員は、さっさとそうしないのか。なぜ予備選に残ってオバマ議員を攻撃し続けるのか。予備選が長引けば長引くほど、オバマ議員の本選に対する準備が遅れることから、マッケイン議員に対して不利になる。一方マッケイン議員は、本選に向けて準備を着々と進めている。つまり、クリントン議員は、本選における民主党敗北のチャンスを大きくしているというわけだ。
人々は、クリントン議員のエゴがそうさせているのだろう、と言う。確かにクリントン議員はエゴの強そうな女性だが、彼女がそのエゴだけでオバマ議員と民主党を引き摺り下ろすか、といえばそれは間違っていると思う。
クリントン議員を駆り立てているのは、過去16年間影で民主党の実権を握ってきた「体制」である。16年前に夫のクリントン大統領が大統領になった時、彼は、DLC(民主党リーダーシップ議会)という組織の政治コンサルタント達と共に、民主党の新しい方向性を打ち出した。「新しい方向性」とは、民主党をもっと共和党寄りの党にすることであった。DLCのアジェンダのトップにあったのが、企業にとって好意的な政策を執り、企業からの献金を増やすことであった。企業からの献金が民主党内に溢れてくるに従って、DLCの民主党におけるパワーは確固たるものとなった。民主党議員達は、DLCの言うことを聞かざるをえなかった。
前に民主党議員たちがなかなか対イラク戦争を終わらせることができないのは、クリントン議員のバックについている政治コンサルタントたちのせいである、と書いたことがあるが、これがまさしくDLCである。DLCが、民主党議員達をがんじがらめにしているのである。
2000年、2004年の大統領選でも、民主党候補者(アル・ゴア元副大統領、ジョン・ケリー連邦上院議員)は、DLCの言うとおりにキャンペーンを行った。結果、2人とも共和党候補者に敗北してしまった。共和党候補者との違いを国民に明確に見せ付けることができなかったからだ。(「共和党寄り」がDLCのモットーなのだから、当然だ。)
しかし2004年の民主党の大統領予備選では、面白い状況が持ち上がっていた。DLCとは何の関係も無い、元バーモント州知事のハワード・ディーン氏が、リベラルな有権者の間で大人気となった。ディーン氏が対イラク戦争に反対したこと、そして、政治史上初めて、インターネット上の草の根キャンペーン、つまりネットルーツ・キャンペーンを効果的に展開させたことが原因である。つまり、ディーン氏は、「人々の、人々による、人々の為のキャンペーン」を展開させたのである。
DLCは、ディーン氏を止めなければならない、と思った。民主党の実権を握るのはDLCであって、断固として「人々」であってはならないのだ。DLCはありとあらゆる手段を使ってディーン氏を痛め付け、ケリー議員を民主党の候補者に仕立てあげた。ケリー議員は、本当はもっとリベラルで面白い政治家だと思うのだが、DLCに骨抜きにされた感じで、大統領本選では、本当に情けないキャンペーンを行っていた。結果、ブッシュ大統領に敗れた。(これに懲りて、ケリー議員は今、DLC/クリントン議員ではなく、オバマ議員を大統領候補として支持している。)
大統領候補への道を閉ざされたディーン氏は、民主党の権威体制を根本的に変えなければならない、と思った。だから、民主党委員会の委員長にさっさと収まり、「人々が参加する民主党政治」を実現するために草の根活動を全国で行っている。これが大成功で、2006年の選挙で民主党が大勝したのも、ディーン氏の力による所が大きい。DLCは、ディーン氏を民主党委員会から追い出したがっているが、ディーン氏は民主党内ですっかり尊敬を集めてしまっているため、手を出すことが出来ないでいる。
そして、ディーン氏のやり方を引き継ぎ、更に進歩させたのが、オバマ議員である。オバマ議員は、DLCを始めから拒絶し、「人々主体」の大統領予備選キャンペーンを行っている。クリントン議員の場合は、大企業による多額の献金が彼女のキャンペーンを可能にしているが、オバマ議員の場合は、百万人もの人々が100ドル以下の献金を持ち寄って(私もその1人だ)、彼のキャンペーンを可能にしているのである。オバマ議員のは、本当に人々の力によるキャンペーンなのである。
ディーン氏が民主党委員長のままで、オバマ議員が大統領になれば、もちろん民主党におけるDLCの影響力は小さくなってしまう。というより、DLCはお払い箱になるだろう。DLCは、そしてクリントン議員は、それを恐れているのである。16年間君臨してきた民主党の最高権威としての地位。簡単には諦められぬわけだ。特にDLCの政治コンサルタント達は、自分達の職が無くなるわけだから必死だ。彼らは、クリントン議員に自分達の生命を託しているのである。
だから、クリントン議員は、本当に最期の最期まで予備選に残って戦い抜くつもりだろう。それが大統領本選における共和党勝利-民主党敗北(オバマ議員敗北)につながるとしても。オバマ議員が本選で敗北すれば、少なくとも、DLCの存在を維持することができるからだ。