今日、近くの公園で定例のパイプ・オルガンのコンサートがあり、そのリハーサルを友人と共に眺めていた。リハーサルを眺めていたのは私達だけではなく、結構沢山の人が集まっていた。そのオーディエンスの中に、フェルナンド・スアレス・デル・ソラー氏の顔を見つけた。スアレス・デル・ソラー氏は海兵隊員であった息子を対イラク戦争で亡くし、それ以来、平和活動家として全国を駆け巡っていることで有名だ。「ブッシュ大統領の嘘のせいで私の息子は死んだ。」「対イラク戦争は違法戦争だ。」と、ブッシュ大統領と対イラク戦争を強く批判し続けている。(同氏については前に書いたことがある。) とっさに友人をほっぽって、同氏に近寄っていき、話しかけた。
「あなたはフェルナンド・スアレス・デル・ソラーさんですね?息子さんのこと、お悔やみ申し上げます。私はあなたに多大な敬意を抱いているんです。あなたのされていらっしゃることは、素晴らしいと思います。」
スアレス・デル・ソラー氏は、手を出し、私と握手をしてくれながら、大変優しい表情で答えてくれた。
「どうもありがとう。私のことをどうやってお知りになったのですか?」
「あなたとあなたの息子さんのストーリーをずっと追っていたんです。インターネットやラジオ番組で。」
「あなたはサンディエゴに住んでいるのですか?」
「はい。元々は日本の出身ですが。」
「日本ですか。私は日本のテレビ番組からも取材を受けたことがありますよ。」
「お体の調子はいかがですか?」
「そうですね。腰が少し痛むときもありますが。(笑)元気でやってます。」
実は私はもっともっと話したかった(民主党がイラクからの撤退実現に向けて何もできないでいることや、来年の大統領選挙について、彼の意見を聞きたかった)のだが、娘さんと思しき人とご一緒だったので、邪魔しては悪いと思って早々に切り上げることにした。
「では、コンサートを楽しんでください。お会いできて本当に光栄でした。」
大変暖かで優しい人、という印象だった。息子さんの死の痛手は、一生消えないのだろうな、と思うと、何ともいえない気持ちになった。
フェルナンド・スアレス・デル・ソラー氏についてもっと詳しいことは、こちら:
スアレス・デル・ソラー氏がこなした数々の平和活動の一つを報じた新聞記事。(North County Times)
ラテン系高校生に対するスアレス・デル・ソラー氏のアドバイス。 (Veterans for Peace)
昨日触れた「White Light, Black Rain」というドキュメンタリー映画について、京さんとおっしゃる南カリフォルニアで学校の先生をしていらっしゃる方が、オンライン・コミュニティでこのように書かれていらっしゃった。転載させていただく。
「14人の被爆者と原爆投下に関与した4人のアメリカ人の証言を軸に貴重な記録映画や資料を交えヒロシマ、ナガサキの真実を余すことなく描くことに成功しています」
とホームページトップに書かれていますがまさしくその通りです。映画の公式ホームページです。
http://www.zaziefilms.com/hiroshimanagasaki/これだけ、原爆の被害を直視して、感情に流されず体験者の語る事実を淡々と描いた映画がアメリカで全国ネットで流れることは、なかったのではないでしょうか?
語ってくださった被爆者の皆さんの勇気に感謝します。アメリカでは、この映画作成のスポンサーとなったHBOというケーブル会社を通じて放送され、私も友人から録画をお借りして、見ました。
アメリカの高校の歴史の授業で見て欲しいなと思いました。アメリカでは、もうすでにDVDが販売されています。
上記サイトのアマゾンでユーザーリビューを見ると
高校の歴史の授業などで見ることを勧めるコメントが多く、
やっぱり、と思いました。私にとって一番意味のあった映像は、
戦後のアメリカで放送された、寄付を集める番組で
原爆投下に関わった男性が
その日の広島にいた日本人を前にして
言葉を失ったところでした。相手が人間だと認識できれば、あんな非人道的なことはできません。
投下の時点で彼らは日本人を人間だと思っていなかったからできたけれど、相手を目の前にして、同じ人間だと知ったとき、ものすごい後悔に襲われたのだろうと思います。戦争を始める前には、必ず国は、
自由に相手国に出入国できないようにして
その国の人々の生活に触れられないようにした上で
国内に流す戦争相手国の情報をコントロールし、
「自分達が攻撃する相手は人間として理解しあえない無い相手だ」
と国民に思わせるから、
非道な攻撃をしても人々は罪悪感を持たないのでしょう。この映画の中でも、
第二次世界大戦中にアメリカ国内で
日本がいかに極悪非道な人間的ではない人々の国かを強調した報道映像を見ることができます。
その逆も当時の日本国内で行われていましたね。戦争しそうになる前にまず最初にすることは
お互いの国の一般の人々の生活を知ることだと思います。
それと、自分は、得られる情報をコントロールされていないか
常に振り返ってみることだと思います。
HBOでWhite Light, Black Rainというドキュメンタリー映画を観た。広島、長崎の原爆投下についてのドキュメンタリーだ。
アメリカに来て久しいが、原爆投下後の広島と長崎の悲惨な状況や被爆者が苦しんでいる様子がこちらのテレビに映し出されているのを見たのは、これが初めてだ。
アメリカに住んでいらっしゃる方は、是非お見逃し無く!HBOのスケジュールはこちら。
日本では、「ヒロシマナガサキ」というタイトルで劇場公開しているので、是非映画館に足を運んでください。
軍隊リクルーターが不法滞在者の若者をリクルートする傾向が顕著になってきていること、例え本人はリクルーターの約束通り合法移民になれたとしても、家族は国外追放されてしまうことが多いこと、を前回書いた。
ちょうどインターナショナル・ヘラルド・トリビューン紙が、イラクにいる間に、自分の家族が国外追放されるのではないかと心配しなければならない兵士たちのことを記事にしている。その記事に紹介されている人物が語った言葉の中で、下記が特に印象深かった。
妻がグゥアテマラに強制送還されそうになっているエドゥアルド・ゴンザレス海軍二等兵曹:
私はアメリカの為に命を捧げようとしているというのに、なぜこの国は私が家族と一緒にいることさえ許してくれないのか。
マーガレット・ストーク移民弁護士:
自分達の家族を国外追放しようとしている政府の為に、彼らは戦っているのです。
2005年の暮れ辺りから保守・右派の間で反移民主義が台頭し、ラテン系には不法滞在者が多いというイメージから、特にラテン系移民に対し風当たりが強くなった。(東ヨーロッパや ロシアからの不法滞在者も多い、つまり白人の不法滞在者も多いのだが、人種偏見から、「不法滞在者=ラテン系」となってしまっている。)共和党は、不法滞在者を重犯罪者にするという法案を作った。この法案は通らなかったが、ラテン系の不法滞在者を恐怖に落とし入れるには充分だった。
さて、この状況を大いに利用しているのが、軍隊だ。
軍隊は従来、低所得層の家庭の高校生をリクルートしてきた。大学に行きたくても学費が賄えないので、諦めざるを得ない、という状況にある彼らに、リクルーターは、「軍隊に入れば、大学の学費を払ってやる」と約束するのである。(実際には、軍隊に加入しても、大学の学費を獲得するのに様々な必要条件があり、それを満たして学費をもらう兵士は少ないらしい。) つまり、リクルートのターゲットは「低所得層の高校生」、リクルートの道具は、「高等教育」だった。
今でも低所得層の高校生はリクルートのターゲットであることに変わりはないが、最近、軍隊リクルーターたちは別の新たなターゲットにも狙いを定めている。それが、「不法滞在者」だ。そして彼らをリクルートする為の道具は、「グリーンカード(永住権)」である。
リクルーターたちは、ラテン系の高校生に近づき、彼らもしくは彼らの両親が不法滞在者であることを確認して、「軍隊に入れば、君と家族に永住権を与えてやる。」と約束する。不法滞在者に対する風当たりが強くなっている中、肩身の狭い思いをしてきた高校生達は、いつ国外追放されるか分からない恐怖から、または、両親を合法移民にさせてあげたいという一心から、軍隊に入ることを承知する。
こうしたリクルート方法は、全高校生の75パーセントがラテン系であるロサンゼルスで特に顕著である。
「私の高校にも、不法滞在の生徒が沢山います。」ロサンゼルス東部のガーフィールド校の教師を務めるアーリーン・イノウエ氏は言う。イノウエ教諭は、「学校における軍事化に反対する連合」という組織を作り、軍隊の口のうまいリクルートに騙されないように、生徒を教育している。イノウエ教諭の生徒であるサルバドー・ガルシア君は、お父さんが不法滞在者で、既に国外追放されている。サルバドー君は、このような体験をした:
「合法移民になりたければ、我々の為に戦ってくれ。そうすれば、君はもう二度と移民のことで悩まなくて済む。」と軍隊リクルーターは言ってきた。サルバドー君が、自分はアメリカで生まれた(つまり、アメリカ人である)というと、「君の家族の中で永住権が必要な人はいないのか?」と聞かれた。父親が不法滞在者だったので、メキシコに強制送還された、というと、「君が軍隊に入れば、お父さんを呼び戻すことができる。我々がお父さんに永住権をあげれば、もう誰も彼にちょっかいを出すことはない。」サルバドー君は、もう少しで承諾するところだった。しかし、アメリカの戦争と、アメリカの移民政策と、(貧困に窮する人が多い)メキシコの国の状態がどのようにつながっているか、という事実に気付き、断った。サルバドー君は今、軍隊リクルートから生徒を守るために積極的に活動している。
リクルーターたちは、あたかも軍隊が本人や家族に永住権を与えることができるかのように言うが、実際は、永住権を許可するか否かを審査し決めるのは、もちろん移民局である。移民局は、昔は法務省の管轄下に置かれていたが、9-11事件以降は、国土安全省の管轄に入り、その業務は、テロ対策のための移民管理、という色合いが強くなった。そうなってからは、不法滞在者に対して厳しい取り締まり方針をとっている。(ちなみに9-11のテロリスト達はみな合法滞在者だったのだが。)その移民局が、子供が軍隊に入ったからといって、不法滞在者であるその親を簡単に許し、どんどん永住権を与えるとは信じがたい。
現に、ホルヘ君というシカゴの元高校生は、リクルーターが「君と家族に永住権を与えてやる」と約束したから、軍隊に入った。確かにホルヘ君自身は、イラクに派遣された後永住権を取得できた。しかし、家族はもらえなかった。彼は怒り、もう軍隊は信用できないと思った。そして軍隊から逃げ出した。
ホアン・エスカランテ君の場合は、イラクにいる間に、移民局が彼と彼の両親をメキシコへ強制送還する手続きを始めた。ホアン君の属する陸軍ユニットの司令官が移民局に書状を送り、移民局もやっと彼を合法移民として認めた。しかし、彼の両親に対する強制送還手続きは、まだ続いている。
家族がちゃんと合法移民になれた場合も、ないことはない。
生まれた時からメキシコに住んでいるへスース・スアレス・デル・ソラー君は、ある日カリフォルニア州最南端の街チュラ・ビスタに買い物をしにやって来た。そこで軍隊リクルーターに出会い、「君がアメリカの軍隊に入れば、家族と一緒にアメリカに移住することができる。」と言われた。へスース君は、彼のメキシコの自宅の電話番号をリクルーターに渡して帰った。それから毎週2回はリクルーターから電話がかかり、カリフォルニアに引っ越すように両親を説得せよと、促された。へスース君と両親は、ついに、メキシコの自宅を売り払い、カリフォルニア州サンディエゴ郡に引っ越してきた。へスース君は、海兵隊に加入した。
それから3年後、へスース君は、20歳の若さで、イラクで戦死した。
へスース君の両親は、アメリカの市民権をもらった。しかし、子供を失った。2人は、へスース君の死に対処できず、離婚した。アメリカの市民権の代償は大きすぎた。
へスース君のお父さんであるフェルナンド・スアレス・デル・ソラー氏は、現在、へスース君の二の舞を出すまいと、軍隊リクルートからラテン系の若者達を守るべく、積極的に活動している。
Illegal Immigrants: Uncle Sam Wants You, In These Times, July 25, 2007
私はワインが大好きなのだが、胃酸逆流の症状がしばらく続いて4ヶ月間あまり医者からアルコール飲料を禁止されていた。
最初に診断に行った時、医者が、「一週間に平均どのくらいワインを飲みますか。」と聞くので、「平均だと、グラス5杯くらいでしょうかね。」と答えた。医者は横に首を振りつつ、まるで小学校の先生が悪ガキの生徒を注意するかのように言った。「その悪い生活スタイルをなんとかしなければなりませんね。」
これにはたまげた。一週間にグラス5杯なんて決して多くは無いのだ!毎日ディナー時にグラスをたしなむフランス人やイタリア人のことを考えてみよう!ディナーだけではない。友人によれば、フランスやイタリアの取引先の会社の人とビジネス会合を兼ねて昼食を一緒にすると、テーブルには絶対にワインのボトルがのっかっているそうだ。ちなみにアメリカでは、ビジネス・ランチでアルコール飲料を飲むのはもっての外だ。ワインが生活の一部になっているヨーロッパ人と、アルコール類は娯楽のもの、とみるアメリカ人の考えの違いだろう。(イギリス人の友人に言わせれば、「アメリカ人は、アルコールとうまく付き合うことができない子供なんだよ。」)
それにしても、ワインが飲めない間は、苦しい日々だった。ワインが好きな方には分かっていただけると思うのだが、ワインというものは、単なる「好きな飲み物」や「嗜好品」などではない。ワインは、(ちょっとclicheっぽい言い方だが)文化と芸術と社会と思想が反映されたもの、なのだ。だから、ワインに「思い入れ」てしまうのである。思い入れがあるから、恋人のようなものである。ワインが長い間飲めないというのは、恋人の体に長い間触れることができなくて欲求不満になるような、そんな感じである。
が、最近やっと医者から「適度に」飲んでもよいと許可された。
早速、テメキュラのワイナリーを回ってワイン・テイスティングをすることにした。テメキュラのワイナリーは、数年前に一度行ったっきり、ご無沙汰だった。やはりワイン・テイスティングというと、ナパ・ソノマ周辺に行ってしまう。テメキュラに行かない理由は色々あるが、やはりワインが、ナパ・ソノマなどのワインに比べてどうしても劣っていることが最大の理由だ。でも、忙しくてナパ・ソノマまで行く時間も無いので、今回は近場のテメキュラで我慢しておくことにした。
さて、テメキュラのとあるワイナリーに立ち寄った時のこと。ワインを注いでくれたサーバーが、グレープの種類についてあまり知識が無く、そこのワイナリーのワインがオレンジ郡のコンテストでメダルを取った、というような話ばかりしている(国際コンテストとか、カリフォルニア州コンテスト、というのなら話は分かるが、ローカルなオレンジ郡のコンテストでメダルを取ったことを自慢するというのが笑える。だいたいオレンジ郡にワイナリーなんて少ししかないから、出典者はみなメダルをもらったのではないのだろうか?)ので、「ほう、それはまたすごいですね!」と合わせるのも不毛だし、この中味の無いどうでもいい会話に退屈し始めてしまった。それで私はテイスティングの場を離れ、ワイナリーの庭を散歩することにした。
やっぱり、テメキュラに来るのはもうよそう、と思いながら庭に出ると、50代後半-60代初めくらいの中東風の男性が、ピクニック用のテーブルの椅子に座ってアフタヌーン・ティーを飲んでいる。目が合ったので、挨拶すると、「ここのワインを楽しんでいますか?」と話しかけてきた。
「あなたはこのワイナリーのオーナーですか?」
「そうです。宜しければ、庭を案内しましょう。」
というわけで、オーナーに庭を案内してもらいながら、色々話した。オーナーは、このワイナリーを2年程前に前のオーナーから購入したのだという。「購入してから、テイスティング場もこの庭も、全て改装させたんです。」庭に置かれてある数ある彫刻を指差しながら、「これらの彫刻は全て、中南米に行って私が自分で選んだものですよ。」と自慢げだ。ワイナリーの周辺一帯をもっと開拓して発展させるつもりだという。
「ああ、あなたはワインが好きでこのワイナリーを購入した、というよりは、ディベロッパーなんですね?」
「その通りです。アメリカに来るまでは、ヨーロッパでディベロッパーをやってました。あなたは日本人ですね?分かりますよ。私はシリア出身なんです。」
カリフォルニアに住んでいると、世界各国から来た人々と出会う。中東出身の人々にも少なからず出会ってきた。が、シリアからの人に出会ったのは、これが初めてだった。そうすると、好奇心がふつふつと湧いてくる。さっそくシリアについて尋ねてみた。
「あなたは私の娘のようです。」とオーナーは笑う。「私の娘はアメリカ生まれなのでアメリカ人ですが、中東情勢についてとても興味を持ち、今その話題について本を書いているんです。私にしょっちゅう色々な質問をしてくるんですよ。彼女には全く手こずっています。」オーナーは笑った後、急に真剣な表情になった。
「私はシリアでは生きていけなかった。キリスト教徒だからです。政府に圧迫されていました。自由が無かったんです。」
起業したはいいが、政府から嫌がらせを受け続けたという。
「馬鹿馬鹿しい要求ばかり押し付けてきた。我慢できませんでした。だからヨーロッパに移住したんです。」
中東出身の人には祖国で苦労してきた人が多いのは私も知っているが、オーナーの言葉に、祖国の政府に対する並々ならぬ怒りが伺えた。
オーナーは、イランの政府についても文句ありだ。
「イランでビジネスをしようとすると、キャッシュでこれだけの金額を前もって用意しないと駄目とか、本当にうるさい。全く馬鹿げている。」
最後に、最も聞きたかったことを聞いた。
「では、アメリカの中東政策についてはどう思われますか?私はアメリカ人では無いので、気軽に言ってくださって結構です。」
オーナーは、にっこり笑って言った。
「その話は、次回このワイナリーに来て下さった時に、話すとしましょう。」
テメキュラには今後めったに行かないだろうから、このキリスト教徒であるシリア人実業家が、米政府の中東政策についてどのような意見を持っているのか、聞きそびれてしまったということだ。ただ、もし彼が米政府の中東政策の大ファンなら、その場でそう言っていただろう。
...日本の政治について英語で説明できる方は、是非してあげてください。
2005年暮れ辺りから、移民制度改革法案について連邦議会が議論を進めてきたが、結局法案を通すことはできなかった。不法滞在者に、罰金を課した後、行く行くは正当な移民となる法的手段を与えたい民主党と、不法滞在者を重犯罪者として永久に国外追放したい共和党の意図が一致しなかったのである。
連邦議会と平行して、各地の地方政府レベル(市レベル)でも移民問題について議論が行われていた。市によって、移民問題に対する態度は違っている。
「連邦政府(国土安全省-移民局)による不法滞在者取り締まりに、市は一切協力しない。」と宣言したカリフォルニア州のサンフランシスコ市やロサンゼルス市のように、不法滞在者を含めた移民全般に好意的であることをアピールする都市もあった。
また、先ごろ全国の主な都市の市長が集まって開いた全国市長会議では、移民はアメリカに貢献しているので、移民を圧迫・制限するような政策でなく、移民の権利を尊重した政策を執るべきである、というような決議が採択されている。(ちなみにこの市長会議では、対イラク戦争の終結を促す決議も採択されている。市長会議の決議は、ブッシュ政権、連邦議会、そして大統領選立候補者達それぞれに提出された。)
一方、不法滞在者を何とか撲滅したいとして、「反不法滞在者」条例を制定した市も沢山あった。ペンシルバニア州のヘイゼルトン市が制定した、家主が不法滞在者に住居を賃貸することを禁止する条例はその代表例であった。
ところがこのヘイゼルトン市の条例は違憲である、と、先日、ペンシルバニア州の連邦地域裁判所が判決を下した。大まかな理由は次の通りである。(1)移民に関することは連邦法の管轄である。この条例は連邦法の管轄を侵しており、連邦法が州・地方政府の法律より優位に立つと定める合衆国憲法の条項に違反している。また、(2)合法滞在者も不法滞在者も、公正に法の手続きを受けることを合衆国憲法により保障されている。ところがこの条例は、告知と聴聞の権利を不法滞在者であると疑われた者に十分に与えていないことから、違憲である。
ところで、カリフォルニア州サンディエゴ郡のエスコンディード市では、昨年市議会がヘイゼルトン市のものとそっくりの条例を可決した。条例は施行されないまま現在に至っているが、エスコンディード市議員たちは、施行を実現したいと願っている。ところが、連邦司法機関と州立法機関という大きな邪魔者が待ち受けており、前途多難だ。
- まず連邦地裁。エスコンディード市が条例を施行しようものなら、間違いなく条例の合憲性を問う訴訟が起こるであろうが、ペンシルバニア州の連邦地裁の判決と歩調を合わせて、南カリフォルニアの連邦地裁も違憲判決を下すであろう。
- そして連邦控訴裁。仮に、万が一、連邦地裁が合憲判決を下したとしても、アメリカの連邦控訴裁の中で最もリベラルであると知られる第9巡回裁判所(西海岸の州及びハワイ州のケースを担当)がそれを覆す判決を下すだろう。
- 更に、カリフォルニア州議会。州議会はちょうど今、ある州法案を可決しようとしている。その州法案とは、入居者がアメリカに合法滞在していることを家主に一々確認させるような条例を地方政府が制定することを禁じるもの。実はこの州法案は、エスコンディード市議会が上記条例を可決したことを受けて作られたもので、いわば州議会のエスコンディード市に対する「お叱り」であった。
Judge Voids Ordinance on Illegal Immigrants, New York Times, July 27, 2007
Escondido Council Divided over Hazelton Ruling's Effect, North County Times, July 26, 2007
治療が受けられずに死亡した子供を持つ母親。治療が受けられずに死亡した夫を持つ妻。治療に莫大な金を費やした為に、破産し、家を失い、路頭に迷う夫婦。「Sicko」で紹介されている人々だ。
アメリカには、医療保険を持たない人が4500万人以上おり、これ自体悲劇である。しかし、上記の人々はその4500万人の中に入っていはいない。
そう、この映画で紹介されているのは全て、医療保険を持っている人の話なのである。
保険会社の支払い拒否のせいで、治療を受けることができず家族を失った。または、治療を受けたために破産した。これが医療保険を持つアメリカ人の実態なのである。映画の中で紹介されている悲しくも悔しい実話の数々は、涙流さずには見られないものばかりだが、同時に、見ている者を恐怖に突き落とす。明日は我が身なのだ。いつでも自分や家族に同じことが起こる可能性があるのだ。(映画にはワタナベさんというアメリカ在住の日本人女性の話も紹介されている。彼女は日本に一時帰国した際、具合が悪くなって医者にかかり、脳腫瘍が発見された。アメリカに帰って治療を受けようとしたところ、彼女の保険会社(ブルー・シールド)から脳手術の支払いを拒否された。)
どこの会社の医療保険を持っていようと、どのタイプの医療保険を持っていようと、どれほど高い保険料を払っていようと、それは関係ない。被保険者が大病を患った時、または大怪我を負った時、保険会社はあらゆる方法と口実を使って、その治療の支払いを拒否するのだから。
医療保険が完全民営な為に、このような醜悪な状況に陥っているアメリカ。「Sicko」は、アメリカとは対照的に、政府が国民の税金を国民の健康のためにちゃんと使っているカナダ、イギリス、フランスの医療システムを紹介する。これらの国では、国民はどんな治療でも無料で受けられる。イギリスでは、治療が無料なだけではなく、病院に向かうバス・電車の運賃やタクシー代まで政府に要求できる。また、フランス国民の受ける治療の質は、世界一優れているとされている。
映画の中で、パリに住むアメリカ人女性が言う。「ここに住めることは特権だと思っている。私の両親がアメリカで一生を掛けて手に入れようとしているものを、ここで私は当然のように持てるのだから。」
また、別のパリ在住アメリカ人女性が、なぜアメリカとフランスではこうもシステムが違うのかについて意見を述べる。「フランスでは、政府は国民を恐れているのよ。(ご存知のように、フランス国民は事あるごとに通りに出て、政府に対してプロテストする。だから政府は国民のための政治をしなくてはならない。)でもアメリカでは、国民が政府を恐れているのよね。」
彼女の言葉でふと思い出したことがある。フランスでは、先の大統領選挙で、保守派のサルコズィ氏が勝利した。アメリカのリベラル派は、サルコズィ氏は医療保険を民営化させ、その結果フランスはアメリカの二の舞いになるのではないか、と懸念していた。だから私は、選挙結果が出た翌日に、パリにいる友人に、新しい大統領は医療保険民営化をすると思うか、とメールで尋ねてみた。彼の答えはこうだった。「フランスの国民はそんなことはさせない。国民全てが質の高い治療を無料で受けられる医療システムは、神聖なものだ。誰が大統領になっても手をつけさせない。フランス人とアメリカ人は基本的考えが違う。いくらサルコズィが保守派でも、アメリカで起こっていることが、フランスに起こると思えば大間違いだよ。」
ヨーロッパでは国立大学は学費が無料という国が多い。国民は、税金を払っていれば高等教育と健康を得られる。国民が健康で英知を持っていることが、国が健常である証拠である、とヨーロッパ諸国は考える。(当然の考えだが。)ところがアメリカでは、健康も高等教育も裕福でないと手に入らない。学費の高さから、低所得層の人々が高等教育を受けることは無理であるし、しかも、小・中・高校レベルでは、宗教を重んじ科学を否定する学校も多く、どう考えても国民を無知なままでとどめておこうとしているとしか思えない。映画の中で誰かが、アメリカの政府は、国民が無知で不健康だと、政治に関心を寄せる余裕も無いので、好き放題できるから、わざとそうしているのだろう、というようなことを冗談半分で言っていた。
この「Sicko」のような映画が、できるだけ多くの人々の目を覚ましてくれることを祈る。
昨年、カリフォルニア州議会は、州民全てが医療保険を持てるように、州政府運営による医療保険システムを開設する法案を可決したが、シュワルツェネガー知事が拒否権を行使したので、法律にならなかった。(知事は、州民全てが医療保険を持てるようにする方法を自ら提案したが、それは保険会社の保険を州民全てに購入させる、というものだった。)今年、カリフォルニア州議会は、昨年お蔵入りした法案(州政府運営による医療保険システム)をまた復活させ、可決しようとしている。カリフォルニア州にお住まいの皆さんは、こちらで署名に参加することによって、この法案SB840を支持する意思を州議会と知事に伝えることができる。
そして、とにもかくにも「Sicko」を観に行かれることをお薦めする。
