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1980年代に共和党のレーガン大統領がアメリカに浸透させて以来、ずっとアメリカの政治と経済の基盤となってきた保守主義。この保守主義の理念に従い、アメリカは、「小さい政府」のスローガンを掲げ、政府機関の民営化、社会保障システムの縮小化、そして企業に対する規制緩和、規制取り払いをどんどん進行させてきた。
(余談だが、私は「privatization」を「民営化」と訳すことに非常に抵抗がある。「民営化」という言葉には、いかにも民衆が経営の実権を握っているような、ポジティブな感じを受けるからだ。アメリカにおける政府機関のprivatizationは、政府高官たちと深くつながりのある一握りの大企業が、民衆の思惑とは全く関係ない所で、企業利益のみを追求して経営するので、「民営化」よりは、「私営化」の方が、しっくりいく感じがする。でも、「政府機関の私営化」というのは日本語としてはなんだか変なので、「民営化」を使っている。)
この保守主義は、民主党のクリントン大統領下でもとどまることなく進んできた。いくら行政府は民主党が実権を握っていても、立法府(連邦議会)は上・下院共に共和党が主権を握っていたからだ。それに、実はクリントン大統領自身、民主党をもっと保守化させようと頑張った張本人でもある。連邦準備制度理事会の前理事長のアラン・グリーンスパン氏は、「クリントン大統領は、素晴らしい共和党大統領だ」と言ったくらいだ。
ところが今、アメリカの国民の間で、保守主義がついに衰退の兆候を見せている。3月12日に発表されたグリーンバーグ・リサーチによる「保守主義の退廃」と題された調査結果によると、大多数の国民が、レーガン政権以降初めて、国民の福祉を守ることが政府の役割であり、政府機関が行っていた業務を企業に任せることは国民のためにならず、企業に対する規制は消費者や従業員/労働者の福祉を守るために必要不可欠であると認識し始めたようである。そしてついに、国民の大半が、政府のプログラムとして国民健康保険システムの導入を望んでいる。
この国民の間における保守主義の衰退は、彼らが、今アメリカに存在する数多くの問題は、保守主義が生み出した弊害であるということに気付き始めたということを示している。山積みされた弊害のほんの一例としては、電力を故意に出し惜しみし、電気代を吊り上げ、消費者を苦しめたエンロン社(電力に関する規制取り払いが原因)、2005年にルイジアナ州を襲ったハリケーン・カトリーナ(ハリバートン社やブラックウォーター社、そして軍需企業に国民の税金を使い込む政府は、自然災害に備えて国の防災設備を整える資金も意思もなかった)、そして最近ではサブ・プライム・ローンから生じた経済破綻(金融機関に対する不十分な規制が元々の原因)がある。
もちろん、例え国民が保守主義の弊害に気付き始めたといっても、共和党であれ、民主党であれ、大企業と深いつながりにある政治家達が保守主義を捨てることはまずまだないだろう。例えば、いくら国民が国民健康保険システムを望んでいても、それを公約する者など、3人いる大統領選立候補者の中には誰もいない。保険業界から多額の献金を受け取っている民主党の候補者ヒラリー・クリントン連邦上院議員は、公約として医療システム改善プランを掲げているが、それは保険会社の保険を国民に買わせるプランであり、「絶対に政府は保険提供に介入しない」とまで言い切っている。保険業界に対する規制なしで保険を強制的に買わせられる国民は、たまったものではない。保険会社が、保険料を上げ放題上げ、支払い対象とする治療の範囲を狭めるだけ狭めるであろうことは、目に見えているからだ。同じく民主党候補者のバラク・オバマ連邦上院議員は、この点を指してクリントン議員のプランを非難しているが、彼自身も、政府による国民健康保険を実現したい、とまでは言ったことがない。共和党の候補者ジョン・マッケイン連邦上院議員などは、医療保険問題は丸無視している。
つまり、政界における保守主義は当分の間生き残るだろう。というより、大企業が政治家に対して力を持っている限り、消え去ることはないだろう。しかし、国民が今保守主義から目覚め始めているということは、今後政府に対して社会保障を充実させ、企業に対し規制を課し、国民の福祉・安全を守るよう求める声が、日増しに高くなっていく、ということだ。
希望が持てそうだ。
以下は、「保守主義の退廃」リポート結果から抜粋:
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下の意見に賛成の場合はYES、反対の場合は、NO:
自身の面倒をみれない国民の面倒をみるのは、政府の役割である。
YES 69% NO 28%
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下の意見に賛成の場合はYES、反対の場合は、NO:
企業は、自身の利益と国民の安全(または権利、福祉)のバランスがとれるように経営している。
YES 38% NO 58%
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どちらの意見に賛成?
A 政府による規制は、消費者の安全及び環境を保護する。
B 政府は、国民が購入する銃や車について、または他のことについても、規制を課すべきではない。
A 50% B 46%
(AがBを上回ったのは、2003年に同質問の答えに関して統計が取られ始めてから、これが初めてである。)
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どちらの意見に賛成?
A カナダのように、政府による国民医療保険システムを導入すべきだ。
B 医療システムは、政府の介入なしで、少しずつ改善することができる。
A 52% B 44%
治療が受けられずに死亡した子供を持つ母親。治療が受けられずに死亡した夫を持つ妻。治療に莫大な金を費やした為に、破産し、家を失い、路頭に迷う夫婦。「Sicko」で紹介されている人々だ。
アメリカには、医療保険を持たない人が4500万人以上おり、これ自体悲劇である。しかし、上記の人々はその4500万人の中に入っていはいない。
そう、この映画で紹介されているのは全て、医療保険を持っている人の話なのである。
保険会社の支払い拒否のせいで、治療を受けることができず家族を失った。または、治療を受けたために破産した。これが医療保険を持つアメリカ人の実態なのである。映画の中で紹介されている悲しくも悔しい実話の数々は、涙流さずには見られないものばかりだが、同時に、見ている者を恐怖に突き落とす。明日は我が身なのだ。いつでも自分や家族に同じことが起こる可能性があるのだ。(映画にはワタナベさんというアメリカ在住の日本人女性の話も紹介されている。彼女は日本に一時帰国した際、具合が悪くなって医者にかかり、脳腫瘍が発見された。アメリカに帰って治療を受けようとしたところ、彼女の保険会社(ブルー・シールド)から脳手術の支払いを拒否された。)
どこの会社の医療保険を持っていようと、どのタイプの医療保険を持っていようと、どれほど高い保険料を払っていようと、それは関係ない。被保険者が大病を患った時、または大怪我を負った時、保険会社はあらゆる方法と口実を使って、その治療の支払いを拒否するのだから。
医療保険が完全民営な為に、このような醜悪な状況に陥っているアメリカ。「Sicko」は、アメリカとは対照的に、政府が国民の税金を国民の健康のためにちゃんと使っているカナダ、イギリス、フランスの医療システムを紹介する。これらの国では、国民はどんな治療でも無料で受けられる。イギリスでは、治療が無料なだけではなく、病院に向かうバス・電車の運賃やタクシー代まで政府に要求できる。また、フランス国民の受ける治療の質は、世界一優れているとされている。
映画の中で、パリに住むアメリカ人女性が言う。「ここに住めることは特権だと思っている。私の両親がアメリカで一生を掛けて手に入れようとしているものを、ここで私は当然のように持てるのだから。」
また、別のパリ在住アメリカ人女性が、なぜアメリカとフランスではこうもシステムが違うのかについて意見を述べる。「フランスでは、政府は国民を恐れているのよ。(ご存知のように、フランス国民は事あるごとに通りに出て、政府に対してプロテストする。だから政府は国民のための政治をしなくてはならない。)でもアメリカでは、国民が政府を恐れているのよね。」
彼女の言葉でふと思い出したことがある。フランスでは、先の大統領選挙で、保守派のサルコズィ氏が勝利した。アメリカのリベラル派は、サルコズィ氏は医療保険を民営化させ、その結果フランスはアメリカの二の舞いになるのではないか、と懸念していた。だから私は、選挙結果が出た翌日に、パリにいる友人に、新しい大統領は医療保険民営化をすると思うか、とメールで尋ねてみた。彼の答えはこうだった。「フランスの国民はそんなことはさせない。国民全てが質の高い治療を無料で受けられる医療システムは、神聖なものだ。誰が大統領になっても手をつけさせない。フランス人とアメリカ人は基本的考えが違う。いくらサルコズィが保守派でも、アメリカで起こっていることが、フランスに起こると思えば大間違いだよ。」
ヨーロッパでは国立大学は学費が無料という国が多い。国民は、税金を払っていれば高等教育と健康を得られる。国民が健康で英知を持っていることが、国が健常である証拠である、とヨーロッパ諸国は考える。(当然の考えだが。)ところがアメリカでは、健康も高等教育も裕福でないと手に入らない。学費の高さから、低所得層の人々が高等教育を受けることは無理であるし、しかも、小・中・高校レベルでは、宗教を重んじ科学を否定する学校も多く、どう考えても国民を無知なままでとどめておこうとしているとしか思えない。映画の中で誰かが、アメリカの政府は、国民が無知で不健康だと、政治に関心を寄せる余裕も無いので、好き放題できるから、わざとそうしているのだろう、というようなことを冗談半分で言っていた。
この「Sicko」のような映画が、できるだけ多くの人々の目を覚ましてくれることを祈る。
昨年、カリフォルニア州議会は、州民全てが医療保険を持てるように、州政府運営による医療保険システムを開設する法案を可決したが、シュワルツェネガー知事が拒否権を行使したので、法律にならなかった。(知事は、州民全てが医療保険を持てるようにする方法を自ら提案したが、それは保険会社の保険を州民全てに購入させる、というものだった。)今年、カリフォルニア州議会は、昨年お蔵入りした法案(州政府運営による医療保険システム)をまた復活させ、可決しようとしている。カリフォルニア州にお住まいの皆さんは、こちらで署名に参加することによって、この法案SB840を支持する意思を州議会と知事に伝えることができる。
そして、とにもかくにも「Sicko」を観に行かれることをお薦めする。
マイケル・ムーア氏の新しいドキュメンタリー映画、「SICKO」がもうすぐ封切りされる。アメリカでは、自分の健康も高額な値を払って買わなければならない。裕福ではない限り、満足な治療は受けられない。それもこれも、強欲な医療保険業界と業界からロビーを受けた政治家達のせいである。「SICKO」は、そんなアメリカの医療事情の実態を詳しくリポートしている。
トレイラーでは、事故に遭い救急車で運ばれたことのある女性が、当時の自分の保険会社に関する体験を語っている。彼女は、後に保険会社から救急車代の支払いを拒否する手紙をもらったのだが、支払い拒否の理由は、「あなたは、当社から承認を受けずに救急車に乗った。」というものだった。彼女曰く、「いつ保険会社に連絡して救急車使用の承認をもらえばよかったというのかしら?車の中で意識を取り戻した時?」
民主党の大統領予備選候補者達はそれぞれ、アメリカ人全てが医療保険を持てるようにする為のプランなるものを発表している。これらのプランのほとんどが「国民に医療保険会社の保険を購入させるためのプラン」であり、カリフォルニア州のシュワルツェネガー知事が提案したものと良く似ている。これらのプランでは、平行して保険会社による理不尽な支払い拒否や無謀な保険料値上げを制限しない限り、醜悪な医療事情はあまり変わらないと予想される。デニス・クシニチ連邦下院議員のみが、(他の全ての先進国がやっているように)政府による国民医療保険システムを開設すべきであると主張している。(しかしこれは保険業界の力が強すぎるアメリカでは絶対無理だろう。)
